指と爪はしっかりとくっついているものと思いがちですが、実は違います。爪の生え方や成り立ちの関係上、くっついているというよりも「指の皮膚に乗っかっているだけ」という表現の方が近いです。しかし、本当に乗っかっているだけなら、爪はすぐに取れてしまうはずですよね。爪は皮膚の上に乗っているだけでなく、何箇所か取れないように固定している部分もあるのです。そのうちの1つがハイポニキウムという部分になります。ハイポニキウムは、ネイリストならもちろん知っている名称で、ネイルケアに詳しい方もご存知かもしれません。しかし、ネイルにあまり詳しくない方からすれば「ハイポニキウムって何?」と思うのではないでしょうか。この記事で、ハイポニキウムの重要性について知っておきましょう。今回は、ハイポニキウムが剥がれてしまったときの適切な対処法や、どんな役割があるのかをご紹介して参ります。
ハイポニキウムってどこ?
手のひらから、指先と爪の接触している部分をよく見てみると、膜のような半透明の皮膚が見えることがあります。これがハイポニキウムです。上の写真で黄色に囲っているところがハイポニキウムなので、自分の指先でも同じ位置を確認してみてくださいね。もちろん手の爪先だけでなく、足の爪先にもハイポニキウムがあります。そして、ハイポニキウムは写真のようにはっきり見えることもあれば、指先よりも下にあって見えないこともあります。
日常生活においてその存在を意識することはないハイポニキウムですが、実は重要な役割が2つあります。1つは、爪と皮膚の間に雑菌やゴミが入るのを防ぐこと、もう一つは、皮膚から爪が剥がれないようにすることです。
●ハイポニキウムが爪の健康を守る
ハイポニキウムがあることで、爪と皮膚の間に雑菌やゴミが入らず、指先の健康を保てます。そもそもハイポニキウムは指の皮膚の一部です。実は爪も皮膚の仲間なのですが、ハイポニキウムには爪と違って毛細血管や神経が通っているので、切ろうとしたり、ぶつけてしまうと痛みがあるはずです。
ハイポニキウムの奥、つまり爪の下にある皮膚は「爪床」と言います。この爪床には「表皮」という、皮膚の外側にあたる層がありません。表皮には細菌や異物などが皮膚の中や体内に入らないように防ぐ役割がありますが、爪床は爪の形成に関わる部分なので他の部位と構造が異なるのです。そんな爪床を覆うようにして指を守っているのが爪で、指先を守っているのがハイポニキウムなのです。ハイポニキウムがないと、爪と皮膚の間がむき出しになってしまい、菌やゴミが入りやすくなるのは想像に難くないですよね。爪床に雑菌が入り込むと、強い痛みとともに炎症が起こったり膿んでしまうこともあります。指と爪の健康を守るためにも重要な役割を持つ部位なのです。
●爪と皮膚をくっつける
爪はキューティクルの下にある爪母というところから少しずつ伸びていき、爪床よりも伸びると爪先の白い部分(フリーエッジと言います)になります。根本から押し出されていくように伸びると考えればわかりやすいのではないでしょうか。指先を守り、力を入れたり扱いやすくする役割がある爪ですが、爪自体は爪床にぴったりとくっついているわけではありません。くっついている部分は限られており、「キューティクル」「両サイド」「ハイポニキウム」のみなのです。それ以外の部分は、爪床に乗っかっているだけなので、これらの部分が損傷してしまうと爪は皮膚から取れてしまいます。
このように、ハイポニキウムは地味で目立たないパーツですが、爪にも指にも欠かせない大切な役割があるのです。
ハイポニキウムが剥がれてしまったら?対処法は?
ハイポニキウムは薄い皮膚なので、衝撃によって簡単に剥がれてしまいます。筆者は重い引き出しを勢いよく開けてしまい、ハイポニキウムが剥がれてしまったことがあります。その他にも、先が鋭利なものをつまんだ時に裂けてしまったり、指先をぶつけた時など、日常生活の些細な出来事がきっかけで裂けてしまうことが多いです。では、剥がれてしまったらどのような対処法があるのでしょうか。
①指先や手を洗って清潔にする
まずは雑菌が爪と皮膚の間に入らないように指先と手をしっかり洗いましょう。洗い流すだけでなく、石鹸やハンドソープを使って清潔にするのがおすすめです。まずは流水で汚れなどを洗い流したあと、石鹸やハンドソープをよく泡立てます。手のひらに泡をのせ、そこに指先を立ててシャカシャカと軽く擦るようにして爪先や指先を洗浄しましょう。強くこすりつけてしまうと、さらにハイポニキウムが裂けてしまうかもしれないので、力を入れずに優しく洗いましょう。
また、メイクブラシなど毛質が柔らかい小さめのブラシを使って、指と爪の間を優しく洗うのもおすすめです。爪ブラシでもOKですが、毛が硬いものはさらに傷つけて裂いてしまうことがあるので、必ず柔らかい毛のブラシを使いましょう。そして、メイクブラシや爪ブラシは、清潔な状態であることを確認してから使ってくださいね。
②出血や傷がないか確認する
剥がれてしまった瞬間は、痛みがジンジンと響いて辛いですよね。また深く傷ついているときは痛みだけでなく出血する可能性があります。血が出ていたらティッシュなどで抑えて止血し、血が止まるまでは安静に過ごしましょう。出血しているところを強く抑える圧迫止血が基本ですが、無理やり抑えすぎて、かえって傷を広げないように気をつけてくださいね。10分ほど安静にしていれば、出血も治まるはずです。
なお、血が止まらなかったり、痛みがかなり強いなど、何かしらの異常を感じるときは迷わず皮膚科や形成外科のある病院に行きましょう。そのまま放置していると、ハイポニキウムだけでなく指や爪にも悪影響を及ぼしかねません。
③触らず、指先を丁寧に扱う
痛みが引いて気にならなくなったら、触らないように過ごしましょう。ついつい気になって指先や皮膚を触ったりもんでしまうと、さらにハイポニキウムが裂けてしまうかもしれません。指先や爪先を使ったりするのはなるべく避けて、ふいにぶつけたりしないよう、丁寧に扱ってくださいね。
④液体絆創膏を使う
ハイポニキウムが剥がれてしまうと、手を洗う時やお風呂に入る度にしみることがあります。そんなときは液体絆創膏を使って指先をガードするのがおすすめです。液体絆創膏はドラッグストアや薬局で購入できます。使い方は簡単で、市販の液体絆創膏を指と爪の間に適量塗って、自然乾燥させるだけです。透明の膜を張ったかのような見た目になり、水や雑菌などが入るのを防ぐことができます。
これは筆者の体験談ですが、筆者はネイルサロンで働いていた時に、イスに強く指先をぶつけてしまい、ハイポニキウムが剥がれることがありました。出血はなかったのですが、接客時の手指消毒をする度に強く痛むので、液体絆創膏を塗ったところ、しみることはなくなりました。お仕事をしている間や手を洗うときでも剥がれることはなかったような記憶があります。また、液体絆創膏をつけて数日経ったころ、いつの間にか爪床と爪のあいだにハイポニキウムが復活していました。接着することで患部を動かさず、安静に過ごすことができたのかもしれません。
液体絆創膏は、乾燥による手のあかぎれやヒビなど、細かいところも塗ってガードすることができるので、1つ持っておくと何かと便利です。塗る前は手や指先を洗っておいて、清潔な状態で使いましょう。
ネイルオイルとハイポニキウムの関係
ハイポニキウムを復活させるには、ネイルオイルやハンドクリームを何度も塗って保湿するべきというWEB記事がたくさんあります。しかし、ネイルオイルにはハイポニキウムを育てるような効果はありません。確かに皮膚を健やかに保つには、保湿も重要な要素です。ですがネイルオイルの使い方が間違っていると、せっかく塗ったのに全く意味のないものになってしまいます。
特に、爪表面にオイルやハンドクリームを塗っても保湿にはならないということを覚えておきましょう。なぜかというと、爪が皮膚呼吸をしておらず、細胞分裂が終わっている器官だからです。そもそも爪は、硬く角質化した皮膚の一部です。硬い角質となった皮膚はこれ以上細胞分裂しないので、爪表面にネイルオイルなどの保湿剤を塗っても「爪が伸びる・ハイポニキウムが伸びる」などの効果が出ることはないのです。
●爪の裏やハイポニキウムにネイルオイルを塗るのは?
爪の裏や爪と皮膚の間にネイルオイルを垂らして塗ると、ハイポニキウムが復活するという記述もWEB記事でよく見かけます。しかし、ネイルオイルの成分によってはかえって悪影響を及ぼすかもしれません。そもそもハイポニキウムが剥がれているとすれば、普段はハイポニキウムでカバーされている爪床が少し露出している可能性があります。そこへネイルオイルを塗ってしまうと、しみてズキズキと痛んだり、オイルの成分でアレルギー反応を起こしたり、雑菌が入って炎症を起こすこともあり得るのです。また、ハイポニキウムがある状態でネイルオイルを塗っても、ハイポニキウムがさらに伸びる効果は期待できませんし、油分が多すぎてふやけてしまい、かえって剥がれやすくなるケースもあるようです。
ハイポニキウムを復活させるには?
ハイポニキウムを復活させるには、やはり指先をぶつけたりしないよう丁寧に扱うことが大切です。また、爪先で缶のプルタブを開ける、シールを剥がすなどの行為もNGです。指先に負荷をかけずに過ごしていきましょう。
また、皮膚の治癒力を高めて、ターンオーバーを正常化するために、食生活や睡眠も気をつけたいところです。そもそも人間の体において、指先や爪、毛根など、末端にある部位は栄養が行き届きにくい傾向にあります。栄養バランスが悪いと、爪や指先まで行き届かず、治癒力低下にも繋がるのです。食事は体を作る大切な要素です。ビタミン・ミネラル・タンパク質・エネルギー・炭水化物・脂質が偏りすぎないように、また足りないということがないように食事内容を考えましょう。
そして睡眠は、新陳代謝アップや成長ホルモンの分泌を促すためにも重要です。睡眠不足では体を作る・修復するといったサイクルが正常に働きません。忙しい現代社会において、日本は特に睡眠不足の人が多いと言われています。爪やお肌、そして健康な体のためにも、睡眠不足にならないように生活リズムを整えましょう。